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Rated Disc Battle

ディスクレビュー

エントリー

  • 2016/05/05

…TO THE EDEN / HELLCHILD

…TO THE EDEN / HELLCHILD
発売日
発売中
レーベル
RITUAL RECORDS
関連URL
http://www.ritualrecords.com/

デスメタルのみならず1980年代後半のハードコア・パンク、90年代初頭のグラインドコア、90年代後半にかけてのパワーヴァイオレンスといったシーンとリアルタイムにリンクしながら00年代までエクストリーム・ミュージックの最前線を駆け抜けながらも、異質なポジションとオリジナリティ溢れる楽曲で孤高の存在として君臨し続けたレジェンド、HELLCHILD。
その初正式音源『...to the Eden』(1992)が20余年の時を経て復刻。 オリジナルではオミットされていたマスタリングの工程をBoris作品などでおなじみの中村宗一郎(PEACE MUSIC)が手掛けることで重厚なサウンドに生まれ変わっているほか、80年代後半から90年代初頭にかけての貴重なデモ音源も一挙収録。 歴史的価値も高い豪華2CDのパッケージとなっています。

『...to the Eden』を改めて聴いて驚くのは、2000年のアルバム『Wish』とほとんど印象が変わらないということ。
『Wish』ではBilly Andersonをプロデューサーに迎え、KILARAやBONGZILLAとのスプリット作に象徴されるようにスラッジのテイストを強めて殺伐としたスロー・ナンバーを聴かせており、『...to the Eden』当時のスラッシュメタル進化形とは全く異なる音楽性。
にも関わらず一聴してどちらもHELLCHILDと認識できる強烈な個性が、『...to the Eden』の時点ですでに確立されていたということを再確認させられます。

デモ音源を聴けば、初代シンガー・細野正孝氏が在籍していた期間の楽曲がVENOM、初期SLAYER、初期DESTRUCTION直系のベスチャルなムードも含むデスラッシュでこれがまた逆にびっくり。
初期SEPULTURAを思わせる音楽性で当時のハードコア・パンクのシーンとコネクトしていたという事実にわくわくさせられるはずです。 現在はSWARRRMで活躍する原川 司氏が加入して以降の音源は、完全に僕らのHELLCHILDイメージそのもの。
当時から独特の憂いを帯びたメロディとスローパートが重要な役割を果たしていたことが確認できます。

全編を通じて感じるのは、鈴木英一郎というギタリスト / コンポーザーが、音楽に対する真摯な態度を、常にオルタネイティヴであることによって示していたということ。
時代を共有した盟友・MULTIPLEXやCORRUPTEDといった面々と同様、横並びに抗って新しい何かを生み出そうとしていたヒート感がありありと伝わってきます。 結成当初から彼らの一挙一動を見守り、もうひとりのメンバーと言っても過言ではないJumbo氏によるライナーノーツも、当時の熱量を感じ取ることができる内容。
これまであまり知られることのなかった事実は、資料的な意味合い超越して感動ですらあります。

text by 久保田千史