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Rated Disc Battle

ディスクレビュー

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  • 2017/12/30

Post Self / GODFLESH

Post Self / GODFLESH
発売日
発売中
レーベル
Avalanche Recordings / Daymare Recordings / Hospital Productions
関連URL
http://avalancherecordings.tumblr.com/

わりと唐突にアナウンスされた感のある本作。工業都市の道端で出会った2人の若者が、40年に届こうかという年月を経てもこうして音楽を作っているだけで嬉しい気持ちになるけれど、タイトルからも連想されるように、これまでとは異なる印象のアルバムを聴かせてくれるなんて、驚異としか言い様がない。復活作となった2014年の『Decline & Fall』EPと、同年の前作『A World Lit Only By Fire』は、“始めた頃の気持ちに戻りたかった”というBroadrickさんの発言通り、初期のGODFLESHを“ロック”然とした躍動感でビルドアップした作風だったのに対し……あえて“対し”とすればだけど……活動停止以前の中~後期を連想させる内容。JK FLESH名義での活動がある程度フィードバックされているであろう多彩なビートワークはアーメン始まりでおなじみの『Us And Them』を連想させるし、瞑想的なミニマリズムは『Selfless』を思わせます。中盤からの不穏なアンビエント・テイストはBroadrickさんのFINAL名義やGreenさんのVITRIOL名義での作風が一瞬頭を過るけど、むしろ『Pure』期のマシーン・スピリチュアルな不気味さを抽出した感じ。でもそれらは、あくまであえて言えばの話で、全てにおいて異なる感触。あらゆる時期のGODFLESHと各ソロワークを包括しながらも、全く別種の、進行形GODFLESHです。今回、個人的にまず再確認したのは、BroadrickさんがKevin Shields(MY BLOODY VALENTINE)やRobert Hampson(LOOP~MAIN)と並ぶレイト80s~アーリー90sの英国ポストパンク~ネオサイケを代表する“ギタリスト”だということ。ギタリストと呼ぶべきかは悩むけど、Peter Kember(aka Sonic Boom / SPACEMEN 3, EXPERIMENTAL AUDIO RESEARCH)もそのラインに入れてもいいかも。つまりはメロディを奏でる装置としてではないギターの用途を、パンクロック~ニューウェイヴのバックグラウンドでブーストして、テクノ / アンビエントを経て先鋭と洗練を極めた世代。ステンチ・クラスティーズだったBroadrickさんがFALL OF BECAUSEからNAPALM DEATHに持ち込んだ初期SWANS的重量感とノイズ / アンビエントの要素や、親友Kevin Martin(aka THE BUG)と組んでWordSound一派のイルビエントと邂逅したTECHNO ANIMALやICEなどでのプレイ、そしてもちろんFINAL作品からもBroadrickさんがいかに特異なギタリストであるかが窺えるわけですが、本作ではその変遷を紐解くかの如き演奏を堪能できます。もし今回のアルバム(の後半)が気に入ったら、『Hydra』や『Calm』の頃のMAINも聴いてみてほしいす。あと、やっぱりリリースするタイミングもいいすよね。ニューエイジ / アンビエント復興とのリンクは外せないとして、ヒップホップ由来の90sコンシャスなブレイクスは雑に言えばKendrick Lamar的だし、バングラやカッワーリーを思わせる金物ビートはMUSLIMGAUZEのリヴァイヴァルとマッチしてるし。国内盤にボーナストラックとして収録されているJK FLESH名義でのリミックス・トラックが、これまでになくガチでテクノなのもイイんだよな~。REGIS & FEMALE主宰Downwardsからのリリースが効いてくる。本作のカセットテープ・エディションがJK FLESH『Suicide Estate』に続いてDominick Fernow(PRURIENT, VATICAN SHADOW ほか)主宰のHospital Productionsからというのも流れ的にいい感じだし。あと、陰鬱と怒り、(アセンション願望に等しいほどの)脱出願望が本作でも渦巻いているのを聴くにつけ、朗らかで優しい人柄のBroadrickさんと見守るようなGreenさんの顔を思い出して、サッチャー政権がワーキングクラスに落とした闇はどれだけ根深いんだ……と思ったりもする。

text by 久保田千史