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歴史的検証

それぞれのメタル元年 その4 ~ブラストビート~

登場した時点で到達点だったブラストビート
エクストリームミュージックにおいては重さもさることながら、やはりスピードは一番と言っても言い過ぎではない程に重要な要素で時代と共にスピードも進化を遂げて来た。
ブラストビートは言わばそのスピードの進化の歴史の到達点だったと言える。

今では決して珍しいものではないしデスメタル/グラインドコアに限らず使用されているので、今となって割と普通になっている感はあるが、このブラストビートが世に登場した時は衝撃以外の何ものでもなかった。
人力での速さとしてはこれは正に究極で、どう考えたってこれ以上に速く叩く事は不可能だと言い切れるもので、これが世に登場した頃は、エクストリームミュージックのスピードの歴史ではいつもそうだったように当初はリスナーの理解を超えていて、すんなりと受け入れられてはいなかった。
自分も最初に聞いた時は「?」って感じで真っ先に「カッコイイ」とか「凄い」とか感じる以前に「何これ?」って感想だったのを覚えている。

MICK HARRIS(NAPALM DEATH)

MICK HARRIS(NAPALM DEATH)

正確にはこのブラストビートを最初に実践したバンドは不明だが、レコードで最初にこれを実践し世に広めたのはやはりNAPALM DEATHの当時のドラマーMick Harrisということになると思う。
1987年にリリースされた1stアルバム「SCUM」がその第一歩ということになるわけだが、その事はまだスラッシュ全盛の時で、NAPALM DEATH自体も現在のようなメタルバンドではなくイギリスのハードコア・シーンのバンドだった故にこの「SCUM」もメタルファンではなく一部のハードコア・ファンにのみ好評という感じだった。
そのNAPALM DEATHが影響を受けていたREPULSIONやSIEGE等はレコードデビューはしてはいなかったので当時のテープトレーダーの間でしか知られていない存在だった。
今になって聞いてみるとそれらのバンドや日本のS.O.Bの1stEP「LEAVE ME ALONE」等はブラストビート一歩手前といった感じのスピードだった。

当初NAPALM DEATHがそうだったようにグラインドもメタルではなくハードコアの一種として認識されていてまだその当時はブラストビートもグラインドコア自体もメタルファンには届いていない感じだった。
しかし一方でこれらのグラインド/ブラストビートが全て当時のハードコア・ファンに受け入れられていたかと言うとそういうわけでもなくハードコアの中でも批判的な見方をする人が当時は多かった。
実際にNAPALM DEATHの初来日公演では日本のハードコア・バンド達が多数出演していて自分が見に行った時にも一部のファンからブーイングが出たり、空き缶が投げられたりしていた(空き缶がShaneの頭に当たってたのを覚えてる)。


当時のNAPALM DEATHが活動していたイギリスのハードコア・シーンにはNAPALM DEATH以外にもかなりのスピードを誇るバンドはいて実際にHERESYやELECTRO HIPPIES等もスタイルとしてはグラインドコアではなかったが、そのスピードはNAPALM DEATHに匹敵するものがあった。
当時の日本ではS.O.Bは勿論、ROSE ROSEやBRAIN DEATH等のバンドがそれらのバンドに匹敵するスピードのハードコアバンドだった。

MULTIPLEX

MULTIPLEX

SATSANIC HELL SLAUGHTER

SATSANIC HELL SLAUGHTER

324

324

IRON FIST辰嶋(DIE YOU BASTARD)

IRON FIST辰嶋(DIE YOU BASTARD)

日本ではS.O.Bは勿論グラインド/デスの中でもゴッドな存在だったが、グラインドコアの新しいバンドの中ではMULTIPLEXの夏目君、SATANIC HELL SLAUGHTERの大島、NAUSEAの内藤君あたりがブラストビートを早くから実践していた。
中でもMULTIPLEXの夏目君は自分が見て来たブラストドラマーの中でも強く印象に残るドラマーだった。
流れるようなブラストと言う感じで当時は海外のバンドを生で見る機会はほとんどなかったので、海外のバンドと比べてどうとは言えないのだが、個人的には当時の夏目君は世界的にみても有数のブラストドラマーだったと思っている。
夏目君はドラムを始めた時からブラストビートを練習していたので逆に遅く叩くのが苦手だと言ってのを覚えているし、そんな話をS.O.Bの安江君としていた時に安江君は「俺と同じや」とも言っていた。
現在夏目君はドラム自体をやっていないようでもう彼のブラストビートを見る機会がなさそうなのは本当に残念。
あと、岡山から登場したERODEDの武田君を初めて見た時にも相当驚かさせたのを強烈に記憶している。
ブラストビートはどうしてもあまりにも速く連続してスネアを叩くために、ライヴでは長めのパートになるとどうしても後半でスネアの音が小さくなってしまうのだが、この武田君のブラスストビートは後半までまったく音量が下がる事なく叩ききっていた。
初めての東京のライヴの時にはリハーサルの時点で共演バンド達から驚きの声があがっていたのを良く覚えている。
更にはそのERODEDのヴォーカル将夫がERODED解散後に結成した324の坂田もかなりの凄腕で、武田君同様に音量の下がらないアタックの強さだけでなく、そのスピードも驚異的だった。
ほんとその腕前は「世界の坂田」というのも大袈裟ではないと思うしBRUTAL TRUTHが共演した時にもメンバーがかなり驚いていてのを記憶している。
今にして思えばこのERODED/324のヴォーカル将夫は本当にドラマーに恵まれた存在だった。
ちなみに話はそれますがこの将夫は現在岡山でFREEDOM TACOSってお店を経営しているようです。
また元SCAMP、現DIE YOU BASTARDの辰嶋さんもとんでもないドラマーだった。
スネアの速さもさるこどながらバスドラの速さも尋常ではなく通常ツーバスでやる事を全てワンバスでやってしまう超人ぶりはライヴではほんとに空いた口が塞がらない驚きだった。
あと個人的にはスラッシュコラムの中でも書きましたがS.O.Bの安江君を生で見るよりも先に見ていたGENOAのノブさんが、自分にとっては生で初めて見たブラストビートだった(当時はまだブラストビートって名称もなかったけど)。



BRUTAL TRUTH

BRUTAL TRUTH

BRUTAL TRUTH

DAVEWITTE(DISCORDANCE AXIS)

BRUTAL TRUTHがデビューした時もまたNAPALM DEATH同様に衝撃だった。
いやNAPALM DEATHよりも衝撃的だったかもしれない。
当時のドラマーScott Lewisが参加した1stアルバム「EXTREME CONDITION ….」はそれまでのブラストビートよりもわずかならも明らかに速く当時のグラインドファンの間でも「まじか?」という驚きがあった。
しかし正直言うと1stアルバム・リリース後に初来日したBRUTAL TRUTHのライヴを見た時にはそのスピードに関しては「あれっ?」という感想だった。
正直ドラムに関してはレコードを完全に再現は出来ていなかった印象でライヴ自体はしびれるカッコ良さだったのだが、ブラストビートだけに関して言うと自分にとっては不完全燃焼だった。
二代目ドラマーのRich Hoakもまた色々な意味で強烈なドラマーだった。
本人が「俺はドラムの基本をまったく知らない」と言っていた通り、叩き方からしてかなり独特でブラストパートになると人差し指と親指でステックを持ち、更に小指と薬指でステックを上下させるという他では見た事のない叩き方をしていた。
正直この叩き方はどうしてもアタックが弱いのでライヴではスネアの音が聞こえないこともあったが、あの顔芸と言いたくなるような表情共々見ていて飽きさせないドラマーだったし、そんな事を気にさせないドラマーだった。

元DISCORDANCE XIS、現MUNICIPAL WASTEのDave Witteをアメリカで最初に見た時もまた衝撃的だった。
背筋をピンと伸ばした姿勢から繰り出されるブラストは恐らくはその時点ではそれまでに見たブラストの中で最速だったと思われる。

ここまでで紹介したドラマーは基本的にブラストビートはMick Harrisが実践したのと同じくワン・バスでのブラストを実践していた。
後にデス/ブラックメタル系ではツーバスでのブラストが主流になっていったが、夏目君なんかは「ブラストはワンバスが基本」としてこのツーバスでのブラストは受け入れていなかった。

また現在では技術革新によりほとんどのメタル系ドラマーはライヴでトリガーを使用している。
これは叩いた時の音の振動に反応して信号を発生させるスイッチで、それに反応してサンプリングされた音がブレンドされるというもの。
このトリガーは今ではほとんどのメタル系バンドがライヴで使用しているが、80~90年代はレコーディングでは使用されていたも、現在のような技術開発がなされていなかったのでライヴでこれを使用しているバンドはいなかった。
確かにこのトリガーにより今ではライヴでも一定の音量をキープする事が出来るのだが、どんなに弱く叩いても反応さえすれば一定の音量をキープ出来るので昔ながらのブラストドラマーはこれを良しとしない傾向もあるようだ。
ちなみにBRUTAL TRUTHのRich Hoakもその一人でライヴにおいては一切トリガーを使用していなかった。


本当に現在ではこのブラストビート自体が珍しいものではなくなったし、ほとんどのデス/ブラックメタルバンドが当たり前のように使用しているがやはりどう考えてもこれ以上速く叩く事は不可能。それ故にこのブラストビートは登場した時点でスピードの到達点だったわけである。
ここでは紹介しきれないほど他にも凄腕のブラストドラマーは数多く存在する(中でも世界的に有名なのはやはりTERRORIZER/MORBID ANGELのPeteでしょう/そう言えば昔Hi-STANDARDのドラムのツネに教えてあげたらドラムの凄さに感激して初来日公演見に行ってたな)。
それを探求するだけでもかなり面白い音楽探究が出来ると思うので、機会があれば是非みなさんも探求してみて下さい。

自分はEXTREME THE DOJOに関わってこれた事で幸運にもかなり多くのブラストドラマーを近距離で目撃できたわけですが、その中でもZYCLONEのTrym、MISERY INEDX/PIG DESTROYERのAdam、NILEのGeorge、LOCK UPのNick、SATYLICONのFrost、CRYPTOPSYのFloなんかが特に印象に残ってます。
彼らのプレイは一見/一聴の価値ありです。

ちなみにまったくの畑違いだが、ジャズドラマーのBuddy Richは今となって見ると、もはやブラストビートなんじゃないかと思える程に速いリズムを早くからたたき出していたし、もしかするとこういったドラマーがブラストビートのヒントになっていたのかもしれない(ちなみにこのBuddy Richの存在を俺に教えてくれたのは夏目君)。

text by Jumbo