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SPEAK OFF THE CUFF !

コラム

野生のメタル

野生のメタル Vol2

先日、一人息子が1歳の誕生日を迎えました。
酒もタバコも断ち、早寝早起きで過ごした人生で一番ヘルシーな生活を送った1年。
「アウシュビッツのえげつないやり方でお前を殺したい(意訳)」なんて曲で興奮していた私が、毎日「おかあさんといっしょ」を見ながら息子とブンバボーン。毒牙の抜けた生活ですが、日々成長する息子には驚かされることばかりで、子どものいる人生というのはなかなかエキサイティングなものです。

当然、人を一人生かしておくのがこんなにも大変なのか、と思うことも多々あります。高齢出産故に、ワンオペ育児の体力的負担や将来の健康面や金銭面の不安も尽きません。私は専業ですが、ママ友の間で今一番ホットな話題は保育園の合否です。
子を持った事で、これまで対岸の火事のように思っていた「少子高齢化」の原因に直面することが多くなりました。

さて、EATをご愛読いただいていた方はご存知かもしれませんが、当時誌面での私の役割は、「無知代表」とか「素人目線」と呼ばれるものでした。いわば、池上彰の番組で言うところの坂下千里子のポジションです。
そんな私が編集長になったのも、学の浅い者が有識者から教わるというスタイルで、如何に読者の気持ちに寄り添った記事作りが出来るか、ということを狙った人事でした。

それが何故私だったのかと言いますと、それをコンポーズする能力があった訳ではなく、単にリアルな若さがあったからだと思います。当時は20代半ば。時代はヘヴィロックやメタルコア勢が台頭しメタルは再び盛り上がりを見せ、若いリスナーが増え始めていた時期ではありましたが、まだまだメタルの主な消費者といえば、いわばMETALLICAの初期3枚世代。もっと若い人々にメタルを浸透させ、消費の裾野を広げたかったのです。

本家千里子が未だにそのポジションを死守しているように、私も素人臭を残したままEATを卒業。今年41歳になります(どうでもいいが千里子は1コ上)。
そして驚くべきことにメタル界隈では、行くところへ行けば私はまだ「若年層」のままだったりします…いや、若年層はちょっと図々しいかもしれませんが、フェス以外のチケット代が割高な大御所バンドのライヴなどでは、ここ何年も消費者層が変わってないな、と思わされることが多々あるのです。
私たちがEATでやってきたことは、大した爪痕を残せなかったのだと、改めて残念に思います。

Slayer

Slayer

Photo by Andrew Stuart

更に先頃、SLAYERがファイナル・ワールド・ツアーの日程を発表しました。
メタルバンドの解散とプロレスラーの引退は信用ならないという定説を思えば、もしかしたらお別れを言うのは早計かもしれませんが、この出来事で一つの時代が終焉を迎えるのは抗えない事実です。
借り物のギタリストでやっていくのも限界があったのでしょう。体力的な問題もあったはず。よい引き際だとも思います。しかし、最近この事を友人と話していた時、

「SLAYERがいなくなったら、誰がラウドパークのトリをやるのか」

という話題になり、船場吉兆よろしく一瞬頭が真っ白になってしまいました。
相応しいと思うバンドは、「SLAYER以前」のバンドばかり。KORNやSLIPKNOTは他のフェスでも通用しそうで、純然たるメタルフェスでトリに相応しいバンドという感じではないかな…などとムニャムニャ考えてしまいました。

SLAYER以降にSLAYERと同等、またはそれ以上の格のバンドがいない、というより、海外での人気と日本での人気が釣り合わないバンドが多過ぎる、と言うのが正しいかもしれません。つまり、SLAYERの登場から35年間、彼らに相当するメタル・ヒーローが、日本では根付かなかったということです。
これは、メタルに若いリスナーがついて来ない現状と、無関係とは言えないでしょう。
現存するならばPANTERAがそのポジションだったのでしょうか。虚しい空論ですが。

また、SLAYER以前のバンドも、これからメンバーが亡くなったり、体力的に厳しくなったりしながら、確実に数を減らしていくでしょう。悲しいかな今まさに、その兆候が見えてきています。
演者もリスナーも一緒に歳を取り、メタルもまた、少子高齢化社会に陥っているのです。

息子が大人になった時、母が愛したこの音楽はどうなってしまうのだろうか。日本でメタルの火を絶やさない為に、我々野生のメタラーが出来ることは、もっと日常にメタルを根差していくことじゃないだろうか。
子の誕生日を寿ぎながら、そんなことを頭の片隅で思うのでした。

メタルを日常へ根差すとはどんなことか、それはまた次回に。

text by 星川